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開発者インタビュー。「ゼロミート」に込められた大豆ミートの可能性とは?

インタビュー

2021.04.05

新たな食の選択肢として、環境保全などの観点からも今大きく注目を集めている「大豆ミート」。ハンバーグやソーセージ、ハムなどをラインアップする大塚食品の「ゼロミート*」も、まさにそんなニーズにお応えする形で生まれた、お肉不使用食品です。

これまで「スゴイダイズ」などの大豆製品を展開してきた大塚食品にとって「ゼロミート」に込められた思いとは。また、お肉のような食べごたえを実現するために、こだわり抜いた開発の裏側とは。

新規事業企画部 研究室で働く、ゼロミート開発担当の竹村和志室長がインタビューに応えてくれました。

* 本製品は大豆加工食品を使用しています。

驚異的なスピード感で開発が進んだ「ゼロミート」

ゼロミートの開発が始まった経緯を教えてください。

大塚食品としては2017年12月に新規事業企画部が発足しまして、そこからスタートした取り組みのひとつが「ゼロミート」でした。大塚グループとしてはヨーロッパを中心に植物肉を展開するフランス企業のニュートリション エ サンテ社や、カナダには植物乳の開発に強いデイヤ社などがあり、グループ全体で「世界の人々の健康」や「社会に貢献できること」を目標に掲げています。一方で「スゴイダイズ」といった製品を発売していることからも分かる通り、我々としても大豆の力で世の中のあらゆる問題を解決していこうというポリシーで取り組んでいます。

実際にゼロミートの開発がスタートしたのは?

新規事業企画部が立ち上がったときは研究メンバーも0人だったので、実際に開発がスタートしたのは2018年4月でした。その時点でメンバーは3人。じつは私は転職組でして、それまではお菓子メーカーに勤めていて、大豆たんぱくなどを使った製品を開発していました。縁あって大塚食品でも大豆たんぱくの開発を続けているので「天職だね」なんて言われることもあります(笑)。

竹村さんは大豆たんぱくのプロなんですね。

いえいえ、むしろ僕は「大豆をおいしくするのは難しい」って思っていたくらいです。この研究室で最初に作ったものも本当にうまくできず、当時はみんなで頭を抱えました。そこから猛スピードで開発を進めて、7ヶ月でテスト的な製品化まで進めました。大塚食品としては異例の早さだったようなのですが、ここで私にお菓子の開発経験があることが功を奏しました。お菓子業界ではコンビニに並ぶとなると3ヶ月で開発する、なんていうこともありスピード感が培われました。

なるほど。ゼロミートの試作はどのくらい重ねられたのですか?

テスト販売までに200種類以上です。3ヶ月間ほぼ毎日、味覚の敏感な朝に試食して、午後に改善、というのを繰り返していました。大塚食品としては過去にもいくつかの大豆製品を開発しているのですが、結果的にはゼロからの挑戦になりました。ズバリ、従来の原料ではハンバーグに合わなかったんです。

にもかかわらず、驚きのスピードでテスト販売に。

大塚食品に根づいているのは「製品を育てる、長く売り続ける」という考えで、これからも継承していくべきと考えていますが、ふと海外に目を向けると代替肉メーカーが6ヶ月でリニューアルしたり、バージョン1からバージョン2へ、とスマートフォンのOSのようにどんどんアップデートするのがスタンダードになっています。時代の流れとしても、お客さんの声に耳を傾けながら製品開発し、どんどんブラッシュアップしていく、というのもひとつの有効な手法なのかなと思っています。

ゼロミートというブランド名へのこだわりについても教えてください。

社内でも多くの議論があったのですが、お肉を使ってないという特長をお客さまに瞬時に理解いただくこと、さらに世界に通用することも意識し「ゼロミート」となりました。

ゼロミートがとことんこだわった「まるでお肉」

ゼロミートの開発で、とくに意識したところは?

大きくは2つあります。ひとつは、豆腐ハンバーグなどと一線を画すこと。食感、味、満足度などが既存のものとは「まったく違うもの」を作りたいと思っていました。もうひとつはお客様に喜んでいただけるポイントとして、栄養素にこだわったこと。「植物性のたんぱく質で、健康的」といった声を反映させることへのこだわりです。やはりカロリーや栄養素をコントロールできるのが大豆ミートの利点ではないでしょうか。

もう少し具体的に教えていただけますか?

たとえばゼロミートの原料には、いわゆる大豆臭が少なく、かつ、お肉に近い複雑な食感をもたらすために複数の大豆加工食品を使用しています。開発過程ではリバース・エンジニアリングという手法を採用していて、まず本物のハンバーグをバラバラにし、硬さやミンチの大きさなどを顕微鏡で解析し、さらに論文などのデータも組み合わせながら試作を繰り返しました。手でバラバラにしていくので、意外とアナログな試行錯誤なんですよ(笑)。

なるほど。食感への強いこだわりが見えてきました。ゼロミートの味わいについてはいかがでしょうか?

大きくポイントになったのは「こってり感」です。お肉のおいしさというのは、=油のおいしさでもあるので、やはりこちらでも本物のお肉の油の組成を参考にして近づけました。植物性油を使い、パルチミン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸などの数値が、お肉の脂肪酸組成に近づくようにブレンドしています。ただしトータルの飽和脂肪酸の量はコントロールし、胃もたれがないような工夫をしています。一方でハンバーグに満足感を求めている方も多いので、140gというボリューム感にもこだわりました。「しっかり食べてもヘルシー」が狙いです。

香りについてはいかがでしょうか?

香りについては、大塚グループと繋がりのある世界的な原料メーカーさんと共同研究しました。すでに海外で実績があるヴィーガン向けの香料や膨大なデータベースを活用し、そこから日本のレギュレーションに適用させた形です*。

日本人向けにチューニングしたポイントはありますか?

これは香りだけに限らないのですが、そもそもハンバーグが日本独自の料理なので、たまねぎ、セロリ、ナツメグなどを用いて「これぞ、ハンバーグ」と思っていただけるような味わいを大豆ミートで実現しました。

* 動物性原料不使用

「ハンバーグ、ソーセージ、ハム」というラインアップへのこだわり

他社ブランドに目を向けると、乾燥タイプや冷凍タイプなどさまざまな「大豆ミート食品」がありますが、なぜ「ゼロミート」はハンバーグ、ソーセージ、ハムの3つからスタートしたのでしょうか?

開発を進めるなかで「大豆ミートはおいしく作るのが難しい」という意見も多く聞こえてきました。食品メーカーとしては、まさにその課題に企業努力やフードテックを用いて応えるべきではないか、と考えました。ゼロミートで意識しているのは、トライしやすく、すぐに食べられること。ハンバーグ・ソーセージ・ハムの3つは、特にそういった身近な食卓のスタイルに適していると思うんです。

改めて、3つの製品の開発時に苦労したところや、こだわりを教えていただけますか?

いっぱいあるんですが……(笑)、たとえばハンバーグでは、お肉のような複雑性を出すこと。その上で、肉汁感や食感にもこだわりました。ソーセージは、本物のソーセージと同じ作り方で燻製をしているので、スモーキーな風味がとても好評です。ハムは本物のお肉のように、しなやかに曲がる柔軟性を意識しました。従来、大豆で代替したものはパキっと割れてしまうものが多く使い勝手が悪かったんです。この製法によって、くるっと曲げてトーストに挟んだり、おしゃれに盛りつけることが可能になりました。

竹村さん自身は、ご自宅でもゼロミートを?

5歳と3歳の子どもがいるんですが、上の子がお肉全般が苦手で、とくにハンバーグが嫌いなんです。でも「パパのつくったハンバーグはおいしいよ」って言ってくれました(笑)。やはりお肉が苦手な人でも食べられるように、重くなく、ライトに仕上げているので、そのあたりが選んでいただける特長なのかなと思っています。

最後に、ゼロミートブランドの今後の開発予定なども教えてください。

最初にもお話した通り、ブラッシュアップを前提としたスピード感で開発しているので、現状のラインアップをより多くのお客さまに愛されるものへと進化させるべく、日々開発を進めています。現在は、日本での採用は初となるような原料も検証しながらラインアップの拡大を検討したり、レストランなどで使っていただく業務用ハンバーグの開発も進めています。

ますますおいしく、身近な存在になっていくのが楽しみな「ゼロミート」。竹村さん、ありがとうございました。

大塚食品株式会社 新規事業企画部 研究室 室長

竹村和志

関西学院大学理学部大学院出身。元菓子メーカー開発者(15年間)、新ジャンル総菜菓子カテゴリーを生み出し、年間約10億の製品を立ち上げる。ガジェット、メカ好き。海外との縁あり。公私含めアジア、欧米で11か国、約30回の渡航歴あり。3歳、5歳の息子と遊ぶことが日々の楽しみ。

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